大勢の前で話すのは難しい。
ほろ酔い加減で仲間と談笑するのとはワケが違う。
大スターだった越路吹雪、超ベテランの森繁久弥でさえ、
幕が開く寸前はすごく緊張する、と聞いた。
ときおり自分も人前で話す機会がある。
もちろん大いにアガる。
アガらない苦労や工夫をいろいろした。
割りといい方法は、予め原稿を準備しておくこと。
さすがに棒読みはしないが、頼みの綱の原稿があるとアガらない。
原稿をコソコソ隠して話すと聴衆からは見苦しい。
堂々と原稿を使った方が自然だ。
原稿なしのマル暗記で臨むと、つい早口になってしまい、聞く側が落ち着かない。
早口になるのは、話す内容を忘れまいとする焦りがそうさせるようだ。
言うべきポイントまでを言い忘れてしまう。
それにしても、メモも原稿もなしに旨いお話をなさる方が居られるものだ。
政治家は本業だから旨いのは当然だが、一般の方でお上手だと尊敬してしまう。
就職志望の高校3年生300人を前に、話をさせられる羽目になった。
いつものように原稿を準備。
高校生の集団に話しかけたことはなかった。
自分には孫の世代。
若者言葉が分からない。
孫は居ない・・・★
それやこれや思い巡らすと緊張が募る。
当日が近づくに連れ、絶頂を極める。
アガらない方法はないものか・・・。
その日話すのは二人。
自分は二人目だった。
「皆さん、こんにちは。ご紹介を頂きました柳です。
まず最初にオジン・ギャグをやります。
面白くなくても、笑ってください。
そちら側で、ただ座っているだけのあなた方はアガりません。
皆さんに笑って頂くと、この壇上でアガっている私の気がほぐれるからです。
え〜、実は、こちらの学校から一ヵ月以上前に、ここでお話をするように言われていました。
今日のお話の準備をする時間が充分ありました。
ところが、ですね〜、先ほどまでお話しなさった○○さんが、私が言おうとしていたこと、私が一生懸命に準備してきたことを、ぜ〜んぶ話されてしまいました。
ですから私が今日、お話しすることは、ありません。
・・・終わります」。
こう言って一礼し、自分の席に戻った。
かろうじて場内は、ひとしきり笑ってくれた。
・・・再び壇上に戻り、本題に入った。
たったそれだけのことで、アガらずに導入部に入って行くことができた。
あとはもう、準備してきた原稿が助けてくれる。
遠来の講師は通常、真っ先に鹿児島と自分との縁や、鹿児島の良さを褒めるなど、ご当地ばなしをなさる。
これも講師が初対面の聴衆との距離を縮め、親近感を図っておられるのだろう。
中にはサービス精神が旺盛なのか、いきなり本題に入られる方も居られる。
これはこれで好感が持てる。
本題とは関係ないお世辞を言う時間の無駄を排し、講演料の効率化を図っておられる、と思えるからだ。
お話の旨い方は、笑いの採り入れ方が上手だ。
冒頭に笑わせられると聴衆は、講話者との距離がぐんと身近に感じ、話す内容に引き込まれ易いのではないか。
この手法を使ってみようと、会場到着直前までに思い当たった。
二人目だったことが幸いし、急に思いついた「オヤジ・ギャグ」、シナリオ作りの時間が得られた。
話した内容が与えられたテーマに副っていたのか、聞いてくれた高校生の参考になったのかどうかは心もとない。
あのオヤジ・ギャグが、一定の成果をみたことだけが印象に残った。

